就任3年目の挨拶

所長に就任して3年目の夏を迎えています。7月末の記録的な猛暑の中、第1学期の単位認定試験が無事に終了しました。その後、8月8日と9日には特別ゼミ「統計的仮説検定(有意性検定)の意味」を開講し、9名の学生の皆さんと一緒に例題に取り組んで理解を深めました。今週は来年度の卒業研究履修希望者との最終面談を行っています。

私ごとで恐縮ですが、実は3月に手術と入院生活を余儀なくされました。ご心配をおかけしましたが、4月からは通常勤務に復活し、今はテニスのプレーも楽しんでいます。今回の経験を通して皆さんに申し上げたいことは、第1に健康診断の受診です。私は人間ドックを毎年受診していたおかげで、早期に対処することができました。第2は日ごろから体力をつけておくことです。私も今回は体力の衰えを痛感しましたが、術後の回復が順調に経過しているのは、若い頃に身体を鍛えておいた成果だと思っています。第3は医学の進歩と人間の治癒力の偉大さです。医師はもちろんのこと、看護師の皆さんにもとてもお世話になりました。放送大学の学生の中には看護師を職業としている方も多いのですが、大変なお仕事と勉学との両立を目指している姿勢に対して改めて敬意を表します。

通常勤務に復帰した4月5日には、午前中に「卒業研究・修士論文発表会」が、午後に「入学者の集い」が行われました。放送大学の学生の中には、学部のあるコースを卒業した後、別のコースに再入学する方や大学院に進学する方が多数おります。また、今年度の修士論文発表者の中には、大学院を修了した後再び学部の別のコースに入学した方がおりました。このように学部あるいは大学院で複数回の卒業と入学を目指す姿勢は、生涯学習の観点からはとても重要であり賞賛に値します。そこで、3回以上の卒業または修了の学生・院生に対して「生涯学習奨励賞」という所長表彰を行うことにしました。4月に制定したばかりなので、今年9月の卒業生から適用になります。皆さんの学習の励みになれば幸いです。

5月16日には、学生サークル「栃木学習センター友の会」の企画による「所長とランチ」が開催されました。私はここで学生の皆さんと情報交換できることをとても楽しみにしています。そして、学生からのさまざまな要望にはできるだけ応えたいと思っています。今回も「図書・視聴学習室のDVDを手の届く高さの書棚に置いてほしい」といった要望には直ちに対応しましたし、面接授業や特別ゼミの企画にも学生から提出された要望を反映するようにしました。ほかにもいろいろな機会を通して皆さんのご要望をお伺いしたいと思っています。

6月下旬には本学習センター教員による公開講座・出前講座が小山市中央公民館で行われました。そして、今年度は新たに日光市今市図書館で出前講座を開催することが決定しました。11月7日に高際教授、8日に海野、14日に横田教授が担当します。また、10月3日には宇都宮大学峰キャンパス大学会館で岡部洋一放送大学長による講演を、2月13日には宇都宮市東図書館で放送大学稲村哲也教授(文化人類学)による講演を企画しました。公開講座は地域貢献の一環として広く一般の方を対象にしています。放送大学の学生の皆さんも奮ってご参加ください。

ところで、放送大学では今年度から新たにオンライン授業がスタートしました。これはテレビ・ラジオによる配信は行わず、インターネット(例:映像、パワーポイント、PDF資料等)のみで配信する授業です。今年度の開設科目は「教育課程の意義及び編成の方法(‘15)」と「幼児理解の理論及び方法(‘15)」の2科目ですが、来年度は学部で6科目、大学院で2科目が新たに開設される予定です。なお、今年度開設の2科目はいずれも幼稚園教諭免許状取得に係る特例科目に対応しています。どういうことかというと、幼保連携型の認定こども園で働くには原則、幼稚園教諭免許状と保育士免許の両方を持つ「保育教諭」であることが条件(平成31年度までの5年間は経過措置中)となっていて、保育士が幼稚園教諭免許状を取得する場合、本来は39単位が必要とされます。ところが、平成31年度まで5年間の限定措置で8単位ですむという特例があるのです。放送大学ではこれら8単位に対応した授業科目を提供していることをここで宣伝しておきます。

 さて、栃木学習センターは今年度で開設20周年という節目の年を迎えました。10月3日には岡部学長をお迎えして、記念式典と記念講演を行います。また、記念誌の発行も予定しています。これを機会に学生の皆さんが自分たちのセンターをより良いものにしようとする気運が高まればと思っております。来年度は文化祭の立ち上げに向けて学生の皆さんに働きかけていきたいと考えています。

平成27年8月12日
  栃木学習センター所長  海野 孝

錦織圭選手の快進撃に思う
  
 私はここ数年、デ杯、ジャパンオープン、グランドスラムなどの大会で、錦織選手のプレーを生で観てきました。初めて観たときは、ともかく足が速いことに目を見張りました。陸上競技の短距離は片道走ですが、テニスは往復走です。相手打球をコートの端まで追いかけて返球し、その後コート中央に戻ってこなければなりません。素早く戻るためには打球する際に身体の軸が安定している必要があり、そこに錦織選手の素早いフットワークと鋭いスィングの鍵があると言えます。また、錦織選手はどんなボールを打つかのショットの選択肢が豊富で、しかもそのショットの選択が相手選手や観客の予想を裏切るといった面白さがあり、そこに彼のテニスの魅力があります。

最近読んだ「子どもの運動発達」に関する本の中に、遊びを「自己決定と有能さの認知を追及する内発的に動機付けられた状態」と捉えるとの記述がありました。錦織選手の自由発想に基づくプレースタイルは、錦織選手が自己決定に基づいてテニスを楽しんでいる証です。彼が燃え尽き症候群とも無縁で成長し続け、彼のプレーが「遊び心のあるプレースタイル」と称されるようになった所以ではないかと考えています。

錦織選手は13歳のときに、当時の日本テニス協会森田正明会長が出資する奨学生として、米フロリダ州のIMG アカデミーに留学しました。私は嘗て、このアカデミーの経営者であり指導者であるニック・ボロテリ氏によるユニークな著書、「Mental Efficiency Program」を翻訳したことがあります。このプログラムは、自主的に設定した目標を達成するために心技体の能力の向上に取り組む、いわゆる自己開発を目指すものであり、それは有能さの追求に他なりません。具体的には、次の①~⑦の七つの特性の開発を挙げています。①「自己認識」(自分の長所と短所に気づく)、②「自己動機づけ」(目標設定)、③「自信」(目標に向かって努力できる自信)、④「自己訓練」(目標達成のためのプランの作成と実行)、⑤「良好な人間関係」(コーチ、仲間、家族から適切な情報を得る)、⑥「前向きな自己評価」(失敗や困難の克服)、⑦「継続的改良」(PDCAサイクル)。

今年の好成績の裏に、コーチのマイケル・チャン氏の助言の下、地道な努力による心技体の能力の向上があったことは想像に難くありません。それは多彩なストロークとサーブ力の強化、全米オープンで4時間を超える激闘の連戦を勝ち抜いた体力と精神力、「勝てない選手はもういないと思う」とまで言い切った自信などに表れているからです。

 これからは弥が上にも周囲の期待が大きくなることでしょう。そのような中でもテニスを楽しむ基本姿勢を維持し、自分自身で設定した目標に向かって心技体の能力を向上し、遊び心のあるプレースタイルに一層磨きをかけていってほしいと思います。 

(2014年11月25日 海野孝 記)

注)この原稿は、放送大学栃木学習センター機関紙「とちの実」2015年1月号に巻頭エッセイとして掲載されたものです。